フランス2
朝7:30に朝食をとり部屋に戻る。2階から中庭を見下ろすとやはりそこに集まる人の群れ。建物は極めて道路いっぱいにせり出ているのだが、巨大な扉を開くと中庭が広がり、時間と空気の流れる速度が僅か扉一枚で隔てられている。そうして中庭を眺めていると、見ることと見られていることの径庭と違和感、そう日本の場合、集合住宅・ホテル・アパート何にしてもプライバシーが至上とされる為、中庭形式があまり成立してこなかったのだ。これは文化の違いであり、伝統的に日本人は闇の部分に営為の一部を隠蔽してきた陰影礼賛に起因している。 パリの開口一番はガラスのピラミッド、お約束ルーブル美術館に向かう。オープン前から長蛇の列。ピラミッドの吹抜けを滑り降りると、明るく広々とした吹抜空間が広がる。地下とは思えない程明るく開放的。見上げると、ガラスの三角錐はピラミッドの象徴性としてよりも、大スパンへの力学的に合理的な形態と見える。中はオール撮影自由。モナリザやミロのヴィーナスの前はちょっとした記者会見のようにシャッター音が飛び交う。館内を見て回ると、とにかく美術品の収蔵数が半端ない。じっくり見たら一日終わりかねないので割愛。本日は体力のあるうちに広く足を延ばしたいので、観光案内所で自転車を借りる。向かうはケ・ブランリー美術館。歩道と敷地の閾に、プリントされたガラスのしきりが軽やかに聳える。植栽の繁茂する外壁。アフリカ・アジア・アメリカ・オセアニアのアート専門美術館。外構含め建築全般、高質にして土着的なデザインながらもキューブのキャンティ・プリントガラス・モアレの被膜・ピロティ・アモルファスな展示空間と様々な建築言語が集結し、ポップ感もあり多彩な表情を見せている。細部は割と大味。 1時間程して戻ると自転車が盗まれていた。なんとも早い洗礼だが、とりあえず近くの建築・文化博物館に向かう。ここは今回観光リストに組み込めなかったコルビュジェ、ユニテの原寸復元模型があるという。これは必見!にしても、ルーブルもそうだがここもやはり広い。上り下りが多いのだよ!本当に多いよ!こんだけ足腰鍛えられれば自転車速い訳だよチクショー。で、彷徨い彷徨いこと最上階、お目当てに到着。復元かつインナーハウスなので基本インテリアの閾は越えられないと思いきや、それでも質実で豊潤な空間の気配が伝わってくる。やはりコルビュジェの空間は魅力的。 続いてもコルビュジェ、ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸。自転車を失い折角なので地下鉄にトライ。あらま、これは簡単、そしてパリのあちこちに乗り場が巡らされていて便が良い。これは重宝出来るぜ!で、あっさり目的地到着。改修中につき外観は養生に覆われている。しかし住宅地でもあるので、いかに豊かな内部空間が秘められているかに期待。エントランスに入るとまず明るい3層吹抜けのダイナミックな空間に会する。その吹抜けを介し、L型プランはパブリックな室とプライベートな室に分断されるのだが、吹抜け2階部分のブリッジがそれらを繋ぎ合わせ、更にギャラリーからスロープで吹抜けに面する書斎へと至るシークエンスは、後のサヴォア邸でより先鋭的となる建築的プロムナードの萌芽が早くもここに実現している。 一旦、自転車を再レンタルし、ゴシックの傑作とやら、サントシャペルに向かう。途中セーヌ川に架かる橋が目映い。近づくと無数の南京錠。日本の絵馬に近しいのだが、洋式が変わると見え方もシャレオツ!で、サントシャペル。写真で見るからにステンドグラスと洗練された細身のディテールが印象的なのだが、意外なのがスケール感が割とヒューマンスケール。天井高は2.3倍あっても良さそうだがこれはこれ。 次いで本日2件目ジャン・ヌーベル アラブ世界研究所。外観のデザインにもなっている幾何学模様の調光装置が特徴的。内部空間はやはり大味の感あり。 サントシャペルを経てからのパンテオン。こちらはスケールが桁外れにデカい。巨大な伽藍堂は、日本だと大谷の洞窟を彷彿させる。 国立図書館の外観だけ眺め、本日最後はゲーリーのシネマテーク フランセーズ。一目見て惚れる美妙。有無も言わさずカッコいい。ゲーリー建築は初めて見るが、その美しさはサヴァン症候群がある特異点において突出した能力を、世間の視座から隔ててスクスク育てられたような異能の美である。内部空間は複雑ながらも豊かな空気の畝りを孕んでいる。自転車の返却時間が迫り、ゆっくり見られないのが残念だ。 ツールドフランスばりに疾走して、ギリギリ閉店間際に自転車を返却。疲れ果てながら宿を探すと、目的のホテルが満室。またしても宿探しに深夜徘徊。2日目にしてマジかー、という疲労感。
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