top of page
旅行記事

フランス8

 昨夜は、なんとかバスと列車をうまく乗り継ぎ、夜12:00宿に辿り着く。リヨンは坂道が多く、足腰が軋み疲労もMAX。折角のリヨンなので、ローマ劇場・旧市街・オペラ座ぐらい見ておこう。が、止めを刺さんばかりのばかりの坂道。もはや何れの建築群にも、校長の銅像を眺めているような無感動な自分がいる。早くラ・トゥーレットに行こう。そうだ、ラ・トゥーレットに行こう。分かりきったことなのだ。見たいものが見たい。見たいと見ておこうでは、そもそも宝物とガラクタぐらい意味が違うのだ。疲れ切った体に、レッドブルとサンドイッチで自分を励ます。  で、L‘Arbresle駅。またしてもひたすら坂道。ところどころラ・トゥーレットの看板。徐々に気分も高揚してくる。どのぐらいのスケールで、どの角度で、どのような佇まいで姿を現してくれるのであろうか。昂進で汗が滲んでくる。それは何かの写真で見た冷たくピンと空気の張り詰めた靄に浮かぶ要塞のような重厚なイメージはなく、4月の祝福された日射しと温かい空気に囲まれた清々しい邂逅であった。待ち望んだ歳月が長いだけに、この建物を贔屓目に見ないことなどできるのだろうか。  全体の構成は、修道士が滞在するコの字型の諸室群と、量塊のコンクリートに閉ざされた大聖堂に中庭が囲まれている。斜面に立つ6階建ての修道院なのだが、接道は入口3階部分からのアプローチともあって、まるで避暑地の別荘のような軽やかな印象を助長する。アプローチと同時に中庭が一瞥できる。建物内を散策すると、プランは明快なロの字型と思いきや、中庭を横断する階や中庭に競り出した小礼拝、迂回状に配された廊下など複雑で、その驚くべき最たるものは、上層階から下層階へと歩く毎に様相を変貌される空間性にある。中庭形式もここフランスでは馴染みのものだが、中庭は上層部の宿泊室からは横長のスリット窓から辛うじて眺められるのみで、下層部に行くに従い開放性は高められていくものの、オンデュラトワール(波動式)と呼ばれる不規則な開口部の桟が、俗世間との透明性に乖離を示すようである。また外観からの軽やかな印象に反し、内部の素材は極めて簡素さとオンデュラトワールや床の幾何学パターン、絶えず風景の中心でありながらも、直接出ることは出来ない禁じられた中庭などは、修道士たちへの抑圧と戒律を暗示している。大聖堂は巨大な空間を有しながらも光は極めて控えめに採り入れられ、厳格な祈りの場となっている。  ここラ・トゥーレット修道院は見学のみならず、宿泊が可能である。もちろん本日滞在予定。至福の時である。


最新記事
タグ検索
まだタグはありません。
ソーシャル
  • Facebook Classic
  • Twitter Classic
  • Google Classic
bottom of page