スペイン 4
朝、朝食に出てきたのはやはり堅いパンだ。口の中が痛い。安ホテルの朝食はなにか悲しい。映画でガラス片を口の中に突っ込んでムリヤリ咀嚼させる拷問があったがそんな感じだろうか。もちろんそんな感じではないが。
本日は、今回渡航最大の目的地であるビルバオグッゲンハイム美術館。フランスでゲーリー建築を見て以来すっかり心酔してしまい今ここに至る。建築の力が、はるか遠く異境の地へと足を運ばせる。ずいぶん遠くまで来たなあと不思議な感慨に耽る。グッゲンハイム美術館まで3km程、路面電車かバスも運行しているが是非ここは歩きで向かい、視界からゆっくり現れる様を堪能するのも醍醐味だ。地図を頼りに進むと、グッゲンハイム西手にイソザキゲートという文字が飛び込んできた。おそらく磯崎新の何某の建築物に違いない。後でゆっくりという気分にもならなそうなので、まず磯崎ゲートを尻目にグッゲンハイム美術館にアプローチといこうではないか。
段々と鈍い光を反射させた建築が視界を撫でてくる。風雨で劣化した金属板が瑠璃色の輝きを放ち美しい。いよいよ近づいてくると、写真でみて想像していた印象と若干違う。金属の塊と大理石と青?の建物が渾然一体となっている。くしゃくしゃの金属板に一部びろ~んと引き伸ばした船のようになっていたアレは何だったのだろうか。まさか改装?不安と期待を胸に入場する。内部空間はと言うと、言葉にするのは野暮なのではなかろうか。いや、ここでは言語化しなくては話にならない。あえて言うとするならば、建築言語以前というのだろうか、純粋空間というべきか。コルビュジェであれば近代建築の五原則のように言葉によって空間が支えられている。ゲーリーの空間は、彼の設計プロセスを見れば分かるように、夥しい模型との検討により空間が作られている。設計事務所であれば夥しい模型による検討は珍しいことではないのだが、ゲーリーの特異性はそこに建築言語が介在していないようなプロセスなのだ。結果、空間はオブジェの中に溶け込むに、思考は分解され、感覚が漂う。中から一部テラスに出ることができる。すると川・橋が見えて美術館に向かう人・通り過ぎる人・大道芸の人たちが撫でつける。そうか、僕がファサードと思っていたのはアプローチの裏側なのだ。通常とかく駅や市街地からの動線をファサード側と考えがちだが、グッゲンハイムはこの川に添ったゆったりとした人の流れ・十分な建物の引き・金属板にたゆたう水面からの反射を鑑みれば当然の構えかもしらん。大満足を得て、グッゲンハイムを後にする。
昼食はガイドブックに載っていた店を探して入ってみる。定期的にまともな食事を口にしないと体調が維持できない。年ね。ステラという店に入るとカウンターにはタパスといわれる一口オードブルみたいな食べ物がズラリと並んでいる。どれも美味しそうなので適当に5.6個チョイスし、ビールでかっこむ。カウンターに座るとビールを頼みたくなる条件反射が発症。さて、次いでゆっくりする間もなくバスターミナルからマドリッドに向かう。バスの待ち時間が合わないと嫌というほど待つ羽目なるので急ぎ足。バルセロナに続く僥倖、10分も待たずに出発となった。とはいえ到着まで5時間程度。今日も移動が長い。途中休憩で停車の後、隣の席の韓国人風のアメリカ人が話しかけてきた。お互い写真を見せ合ったりしたが、この人も建築写真が多く、しかも上手い。僕の写真は最近記録用になりがちだ。もう少し頑張らないと。こうして偶然隣り合わせた人と話したりするのは楽しい。僕の旅行は建築だけをターゲットに黙々と見学、移動の繰り返しになるので、それ以外への興味が抜け落ちてしまうというか、大阪辺りに建築見に行っているのと変わらない感覚になることもしばしば。マドリッドで別れの挨拶をして、到着は19時。まずはホテル探しだ。価格と場所の共演から決めたところで、歩くには結構距離がありそうなので地下鉄にのる。切符さえ難なく買えれば、乗り方はさほど日本と変わらないので地下鉄は便利だ。ホテルに着くと満室であった。トホホ。ガイドブックで近くのホテルを探すと、日本人夫婦が営むホテルが直ぐ近くにあるではないか!電話要予約とあるので早速電話すると日本語で出た!空室もある!滞在4日目にして日本語が通じる事態に安堵で胸を撫でおろす。着くとやたら人好きそうな店主がしゃべくり倒す。そして邂逅一番指摘されたのがマスクだ。バルセロナで市街を一日自転車移動してたら喉が痛くなったのと、花粉症のようなくしゃみと怠さがあるので風邪予防でマスクをしていたのだけど、「ここスペインでマスクなんかしてたら変な目で見られんで!」と、うわぁ~。知らない場所でのマナー違反をそこまで言うかぁ~。。。ってなぐらいの勢いで批難された。しかも更に聞くと、スペインにも花粉が結構飛んでるってよ。。。どうりで。てか、じゃあマスクいるじゃん。花粉症どうすんだよっ!
続いて、ホテル内の使い勝手の説明とマドリッドの周辺情報、それに明日向かうトレドやコルドバの行き方を地図で(聞いてないけど)教えてくれた。正味、方向音痴の僕にいきなり地図を見せられても全く入ってこない。荷物をおろし、夕食にありつきがてら、夜の街の顔を覗きに行くのが一日最後の締めくくり。