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旅行記事

スペイン 8

 最終日。フライトは昼なので朝、昨日行きそびれた所に地下鉄で向かう。時間もあまり余裕はないがこれで最後と思うとやはり見たい。せっかくだから、せっかくだから。旅行ならではの呪文。で、地下鉄で目的地に向かっていると思ったら同じ駅を2度通過。あれ、遠のいている。馬鹿な。いくら方向音痴でも電車の進行方向まで道連れにする力は無いはずだ。も一度電車を乗り直すが、一つ手前駅で電車が停車。皆乗り換えをしている。駅員に聞いても要領を得ない。ホームの看板を見ると、ああなるほど。工事中で下車駅より先に進まないようなのだ。ここから歩くか、タクシーか。既に時間も危うい。諦めるか。

 空港行きのバスに乗る。スペインの街並みに別れを告げるさなかのバス信号待ち。のんべんだらりと前方を眺めていたら、運転手が何かソワソワしている。そして、意を決したように突如バスの扉をあけて慌てて外に飛び出した。何事!かと視線を追うと、運転手はそのまま歩道沿いのパン屋に突撃。小銭を急いで渡し、まるで映画で見る強盗の如くパンを要求。再び、猛ダッシュでバスに飛び乗り、急いで扉を閉めるボタンを強打。シートベルト、ウインカー、発進とわずかな信号待ちの間に目まぐるしい一連の所作を終え、落ち着いたところでパンを口にパクリ。まるで至福と言わんばかりの安堵に満ちた表情を浮かべた運転手を見て、僕は感動した。なんて人間じみた表情をするのだろう。ブラボー、ブラボーと乗客全員拍手で讃えたい。このわずかな信号待ち時間に起きた人間ドラマ。人間交差点?職務の真っ直中、運転手の肝心要でもあるバス・乗客を一瞬放置し、それでもパンを買う、皆の前で食べるという私欲を満たすための勇気とそれを容認する社会。ああ、最後に素晴らしい出来事に立ち会えて良かった。これを感動と呼ばすして一体何を。日本だったら即、誰ぞが会社に垂れこんで謹慎やら懲戒やらニュースのネタに。途中、併走する車がこちらに向かって親指を立てていて、運転手もグッ!とばかりに親指を立てかえしていた。くぅ~。いかすぅ~スペイン!紛う事なきその情熱っぷりを見せてもらったよ。アディオス!


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